デザート・エクスプレスは1998年に運行を開始したナミビアの観光列車で、ナミビア第一、第二の都市を結んで、行程の1/3は砂漠の中を走る珍しい経験が出来るユニークな路線である。一編成列車しかないので、週二回ヴィントックからスワコップムントへ向かい、翌日逆方向に走る。360kmを20時間も掛けるのは、途中で二点の観光対象を訪問したり、夕食時から翌早朝迄列車は停止しているからである。広大な地平線、豪華な日没、鮮やかな南天の星座等が印象に残る旅となる。

出発

午後1時頃独特の四角い屋根を持ったスワコップムントの顕著な建物、スワコップムント・ホテルのロビーに集まり、切符を受け取り、スーツケースに名札を付けてもらう。このホテルの建物は昔の駅舎を改造したもので、内部は広々としており、階段や柱などに普通のホテルらしからぬ堂々たる重厚さを見かけ得る。列車への搭乗はここからマイクロバスで3分程の街の外縁で行なわれる。プラット・ホームも何も無く、単に列車が線路上に停止しているだけの駅である。ディーゼル機関車はブルー・トレインに似た型式であるが、もっと明かるいブルーの地に白線と黄色の横線でアクセントを入れている。客車は淡い空色で、上部を少し濃い青色で変化を付けている。乗客が搭乗して間も無く、午後2時にヴィントックに向けて出発する。

列車構成

一台のディーゼル機関車で牽引する一列車は8両編成で、前方から、全部同じクラスの個室を六室づつ抱えた四両の客車、スピッツコッペ・ラウンジカー、ウェルウィッチヤ・レストランカー、スナック・バー兼子供用遊戯室のビストロカーがある。個室は最高3人迄収容可能なので、総計72人乗れるが、その場合には大変窮屈になる。

個室内装

個室の内部は窓枠に沿ってシングル・ベッドが置かれ、それに直角に二段のシングル・ベッドが配置されている。既にベッド・メイキングされたこれらのベッドは壁にはめ込まれていて、何時でも横になる事が出来る。但し上段のベッドには落下防止用の手摺りは付いていない。折畳み式の窓際のベッド・サイド・テーブルにはミネラル・ウォーターのボトルが置いてある。ベッドに向き合う位置の部屋の一角はトイレ/洗面台/シャワーの組合せが一つのユニットとしてまとめられていて、鏡が外側に付いており、その下にはセイフティー・ボックスが設けられている。内装は落ち着いた黄土色であるが、車体と同様の薄青色のカーペットを使い、窓枠、トイレ・ドア、部屋の扉にステンレス・スティールが使われているせいか、クールな感じを与える。入り口の内壁には電灯と空調装置のスイッチがあり、枕元には電話と三局選択出来るラジオの摘みが備えてある。
  一応三人迄一室に泊まれるが、大きなスーツケースを抱えた旅行者には二人でも狭く感じられるのは、部屋の1/3を占めるバス・ルームのせいであろう。又通路側の窓と扉は透明なガラス張りで、引き下ろし式のブラインドで視界を遮っているだけなので、ブラインドの端から内部がチラチラ見えるのは考えもので、もっと工夫が欲しいところである。一番の欠点はバス・ルーム・ユニットが狭過ぎる事で、小柄な日本人でさえそう感じる程であるから、大ぶりの旅行者はどういう風に使用したのか気になる。スペース節約のためにトイレとシャワー・ルームの間にある洗面台は左右にスイングする様になっていて、例えばトイレを使う場合には洗面台をシャワー・ルームの方に押しやっておく。ところが、スイングする部分から水が漏れたり、折り畳み式のシャワー・ルームのドアがきっちり締まらないのでトイレ側の床が濡れたり、とあまり快適では無い。

スピッツコッペ・ラウンジ・カー

ラウンジ・カーの一隅にはバーのカウンターがあり、その近くは喫煙者用のラウンジになっている。その二倍のスペースがある禁煙者用のラウンジは喫煙者側とは単にガラス窓で仕切られているだけである。それぞれ片側に小さいテーブルを挟んだ椅子が置かれ、反対側には半円形の机の周りにベンチが配置されている。先ずはウェルカム・ドリンクを貰う。デザート・エクスプレスではこのウェルカム・ドリンクと朝起きがけのティー/コーヒーと車外で飲むサン・ダウナー以外の飲物は全て有料である。カウンターの隅には帽子、Tシャツ等の記念品が展示されており、希望者は購入出来る。窓外に眼をやると、始めは所々に潅木が点在する砂漠地帯が地平線の彼方迄広がっているが、砂丘は殆ど眼にしない。そのうちに次第に植物の数が増えてきて、遠くには山も見える荒野とか原野の中を走っているといった感じである。

カーン・ヴァリーにて

夕方四時頃、支線に停車して1km程離れた小高い丘に登る。道々ハンティング・サファリの格好をしたマネジャーがその辺に生えている各種の草花や樹木に就いて説明してくれる。車内からは枯れた白っぽい草が生えてるだけの様に見えるが、近くで見ると冬期間にも拘わらず、かなりの草花が小さい花を付けているのが分かるし、姿は見えないけれどもカモシカの糞があちこちに散らばっている。丘は第一次世界対戦の時にドイツ軍の見張り台として使われたそうで、錆びた鉄板や缶づめの空き缶が転がっている。丘の上からは南に展開するカーン・ヴァリーとその背後の山並みを望見出来る。頂上からきれいな日没光景を見た後、丘の麓でサン・ダウナー(日没時の一杯)を楽しんでから列車に戻る。

晩餐

狭いシャワー・ルームで何とかシャワーを浴びると間も無く夕食の時間となる。ラウンジ・カーに続くウェルウィッチヤ・レストラン・カーに赴き席に着く。進行方向右側に4人用、左側に二人用の席があり、一度に29人食事出来る。三種類の三品コース・ディナーがあり、大西洋で取れた魚を選ぶ。ワインは南アフリカ産である。フト気が付くと列車は何時の間にか又支線に入って停止していた。周りを見回すと、大部分の乗客は気楽な格好である。エレガント・カジュアルがドレス・コードなので、それに従ったのであろう。食後は隣のスピッツコッペ・ラウンジに移ってロイボッシュ・ティーで仕上げる。

星座観察

列車が停止したままなので、全員車外に降りて星座を眺める事にする。又もマネジャーが先頭に立ち、南天の主な星座を説明してくれるが、慣れないせいか、南十字座以外ははっきりは分からない。南十字座は丁度頭上にあり、ケンタウルス座の二つの星と共に良く目立つ。大きな三日月も出ていたが、それでも銀河系の星の数の多さは、都会で見るよりも遥かに多い。冬の事とて余り長い間外に出ていられないので、暖かい車内に戻って眠る事にする。

就寝

個室に戻ると、既にベッドの用意が出来ていて、枕元にはチョコレートが置いてある。枕元の電話で翌朝の起床時間を叩き込み、眠りに着く。列車の振動が無いせいか、良く眠れる。

朝食

南アフリカとの時差が一時間ある(一時間遅れている)ためか、予定よりも早く目覚める。何時の間にか列車は又走り続けている。シャワーの後、食堂車に行くと未だ早過ぎた様なので、ラウンジ・カーでコーヒーをもらう。もう窓外はかなり明かるくなり、そろそろ日の出の時刻である。丁度テーブルに着いた頃地平線から太陽が上がってくるのがチラチラ見える。遠くの山に日が当たり、当たらない部分とくっきりとした対照を為す。爽やかな朝というものは気持の良いものである。朝食はセルフ・サーヴィスで好きなものを取れるが、卵料理とトーストは注文するとキッチンから持ってきてくれる。線路に沿って私営動物保護区があるので、食事をしながら時々キリンを見かける。他の動物は線路の近くには来ないし、背が低いので、樹木の蔭で見えないそうである。ラウンジ・カーに移ってティーを注文する。

オカプカ動物保護区にて

朝食後八時頃ヴィントックの北一時間程の所にあるオカプカ私営動物保護区に立ち寄り、ライオンの朝食光景を観察した。列車は又もプラットホームも何も無い支線に停まり、全員保護区から迎えに来た車に分乗してライオン観察のための囲いへ移動する。カモシカの1/3位の頭付きの肉塊を投げ入れると、どこからともなくライオンが現れて、適当な大きさに食い千切るとそのまま又視界から消え失せるだけの事である。その後ロッジに回り、飲物をご馳走になる。ダチョウが庭を這廻している。ここは有名なエトシャ国立公園迄行く暇の無い人が簡単にサファリをしたり、ヴィントックから会議をしに来たりする人が主な顧客だそうである。又車に乗って列車に戻る。

到着

この列車ではアナウンスが全然無かったが、到着時間を承知しているので、皆それぞれ準備をする。10:00に到着する。日曜の朝だったせいか、ホームには誰もいない。駅の建物はかなり古いが、広々としていてガッシリしている。又割合清潔である。ゴミも落ちていないし、浮浪者も屯してないし、タクシー一台も客待ちしていない閑散さである。ウェルカム・トゥー・ヴィントック。